本レビュー 「後悔の経済学 世界を変えた苦い友情」マイケル・ルイス著作

ひでせろ
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行動経済学がいかに生まれたかを、ノンフィクション作家のマイケル・ルイス氏が描き出した本の紹介です。マイケル・ルイス氏はマネー・ボール、ビッグ・ショートなどの映画の原作者であるベストセラー作家です。

この物語はエイモス・トベルスキーAmos Tversky)、ダニエル・カーネマンDaniel Kahneman)という二人の天才イスラエル人心理学者を中心に語られます。

驚くべきはこの二人、心理学者でありながら初めてノーベル経済学賞を受賞した方々です。

こちらの本は私が行動経済学、認知バイアスにどっぷりハマるきっかけを与えてくれた本です。

この分野を知ることで世の中の数ある決断、判断の背景がより深く理解できるように

なれたのも事実です。

出版当時の本のタイトルは「かくて行動経済学は生れり」でした。2017年に改題されました。

その方が内容が予期しやすかったのですが文庫版では「後悔の経済学」となっています。

それでは内容をご紹介します。

心理学者がノーベル「経済学」賞?行動経済学の始まり

なんで心理学者が経済学の賞を取れるのか、その疑念は2人の天才の物語を読めば

払拭されます。

エイモス・トベルスキーAmos Tversky)、ダニエル・カーネマンDaniel Kahneman)

という二人の天才イスラエル人が明らかにしたことは何か。

それは、この二人が登場する以前の70年代までの人々の行動は合理的である

という前提に立った経済学は全て間違っていたのではないか?

という一石を投じたことです。

そして次々に論文を発表し、それが文字どうり証明されていく。

当時の経済学者には苦々しい存在であり、当初はまさに異端の存在でした。

それがこの2人のイスラエル人の研究により、人間の認知や行動は

多くの場合で人の判断は合理的でなく、一定の方向に偏っていることが次々と発見されます。

それまでの経済学と言うのはヒトというのは合理的な判断を行い、

その総意の結果、現実の経済現象になると信じられていましたが、

そうでないことを証明してしまうわけです。

なぜマイケル・ルイス氏がこの本を書くことになったか

著者のマイケル・ルイス氏は映画の原作になったベストセラーの「マネー・ボール」を

書いた時点ではこの行動経済学の始祖である二人のことは知りませんでした。

マネーボールという本は下記です。野球をデータを通して洞察する素晴らしい本です。

この本が全米で大人気の最中、行動経済学について知るきっかけとなったのは、

この本への痛烈な批評からでした。

アメリカ有数のベストセラー作家に対するその批評は、簡単に言えば

「どうやら著者は行動経済学の基礎を全く知らないようだ」という内容でした。

これを読んだマイケル・ルイス氏、当然「は?」と思ったと思います。

ですが調べてみると、その指摘は正しく博学の著者も知らない内容でした。

驚くべきことに70年代から論文が出ているが社会的には全く広まっていないような

知識だったのです。

それにショックを受けた著者が調べていくうちに引き込まれ、行動経済学の

大家二人に辿り着き、本を著すまでとなったわけです。

二人が提唱した行動経済学の代表的事例

行動経済学と言われても何なのかパッとは思いつかない方もいらっしゃると思います。

私もこの本を読むまでは何となくしか存在を知らなかったので。

なので彼らが行った有名な事例をいくつか簡単に紹介します。

Wikipediaでも出てくるほど有名な理論ですのでご存知の方もいるかと思います。

・プロスペクト理論

プロスペクト理論は、たとえばファイナンスにおける意思決定などにおいて、人々が既知の確率を伴う選択肢の間でどのように意思決定をするかを記述する。期待効用理論のアノマリーを克服する理論として作成された。「プロスペクト(prospect)」という語は「期待、予想、見通し」といった意味を持ち、その元々の由来は宝くじである。期待効用理論の「期待(expectation)」という語に替わるものとして名前に選ばれた。

行動経済学における最も代表的な理論の一つとして知られており、そのモデルは記述的(descriptive)である。規範的(canonical)モデルと異なり、最適解を求めることよりも、現実の選択がどのように行われているかをモデル化することを目指すものである。個人が損失と利得をどのように評価するのかを、実験などで観察された経験的事実から出発して記述する理論である。

プロスペクト理論では、二種類の認知バイアスを取り入れている。

一つは、「確率に対する人の反応が線形でない」というものである。これは、期待効用理論のアノマリーで「アレのパラドクス」としてよく知られている。もう一つは、「人は富そのものでなく、富の変化量から効用を得る」というものである。これと同様のことを、ハリー・マーコウィッツは1952年に指摘している。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%82%AF%E3%83%88%E7%90%86%E8%AB%96 
Wikipediaより抜粋

ここが重要なのですが、

個人が損失と利得をどのように評価するのかを、実験などで観察された経験的事実から

出発して記述する理論である、ということです。

簡単に言えば、人は利益になることよりも損失により敏感であるということを証明したわけです。

それまでの人々は合理的に判断する=損失も利益も同様に捉えられる、ということを

真っ向から否定する結果をもたらしたのです。

二人の心理学者の友情とその終焉の物語でもある

心理学者のエイモスとダニエル。この二人は軍人でもあり堅い友情で結ばれる二人でもありました。

ですがそれは最後には終焉を迎えます。

ただ二人の天才が徹底的に議論に議論を重ねることで得られた画期的な学術研究は

二人の信頼関係があってこそでした。

それが時間の経過とともに以前とは環境が変わり、種々のすれ違いが生まれてしまいます。

いがみ合うようなことはありませんでしたが、関係が終わりに向かっていく過程では

もう共同研究者として共に活動することも無くなっていきます。

世界的な心理学者でもその寂しさは人間同士ですので、当然あります。

やはり人間の行動は不合理にできているのです。それがわかっていても、そう感じてしまう。

それこそが行動経済学の本質であり、後々に脳の認知科学に繋がっていきます。

ただ現在の行動経済学の礎を築いた二人の内、一人は亡くなり、一人は現在も研究を続けています。

ご興味があればこちらのダニエル・カーネマン著のファースト&スローも是非どうぞ。

それでは。

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